アラサー女の話

朱に交われば赤くなる

手紙を書いた





お世話になった先輩が仕事を辞めた。

家庭の事情だった。


その先輩が辞めると知ったとき、

知った全員が本気で悲しみ、

辞めるのを惜しんでいた。


上司や後輩、別部門の人

知った全員を悲しませた。


仕事ができる上に、心配りもでき、

平等に愛情深い人だ。



仕事を始めてからずっと、

お世話になっていた。


連絡先は知っている。しかし、会いませんか?と連絡するのは恐れ多い。

会えないかもしれない。と思ったのだ。


自分の気持ちを区切らせるためにも

想いを伝えるためにも手紙を書くことにした。






文具屋に行き、便箋セットを見る。

季節のものやキャラクターもの

動物モチーフや植物モチーフなど

たくさん陳列している。

先輩が好きそうな色のものを探す。

便箋の紙質も重要だ。

書きやすい、滲みにくいことは前提で

紙の触り心地がいいもの、

便箋の紙質を袋越しに確認する。

あんまり安っぽいものだと、

気持ちもチープになってしまいそうだし、

反感を買ってしまうだろう。

気持ちを伝えるには最低限の課金が必要だ。


紙がキラキラ光るものや透けるもの

文具屋に行く度に色んなものがあるもんだと感心する。



便箋1つ選ぶにしても気持ちが

伝わってしまいそうだ。


気持ちを伝えるのであれば、

相手がもらって嬉しいものにしたいのだ。



ネットで始まりや結びの言葉を検索し

いらない紙に内容を下書きや推敲する。

ペンに特にこだわりはないが、

書きやすいペンで書く。


便箋に見慣れた大して上手くない文字が並ぶ。丁寧に書いているので、いつもの字よりもマシだろう。


他人に見られたら、笑われて穢されてしまいそうな、プライベートな感謝を綴った。気持ちを伝えるツールはたくさんあれど、独白のような文章は手紙という媒体が一番似合う気がした。


下書きしたが緊張や今までのことを思い出し感極まり、1枚便箋をダメにしてしまった。



なんとか、手紙を渡したがどう受け取られたかは分からない。それを聞けるほど打ち解けた仲でもない。返信は求めることがおこがましい。
















幼い頃、祖父の葬式の時に

「あの人はおじいちゃんの棺をかかえるのを手伝ったのはちゃんと見た?人間の本質はそういうところに出るんだよ。」父親が言った。


父から見たら実の父の亡骸をかかえた、という意味だ。


その時はそのまま受け止めたが、

冠婚葬祭などの大きなセレモニーや

イベント、地震や台風などの災害などで

本心が透けて出るのだと身をもって経験した。





人の出会いや別れなどの区切りは

本心が透けるんじゃないかと思う。

もしかしすると『気持ちに敏感になる』と

表現した方がいいかもしれない。



平均寿命から考えるに

私はまだ半分すら人生が終わってない。

これから色んな人に出会い別れを

経験する可能性が高い。

コミュニケーションは苦手だ。でも、自分が嬉しかったことを伝えられないのはやっぱり辛いことだ。


手紙を書くのは便箋を選ぶ過程から

楽しくもあり、節目を感じ、ほんの少し悲しくなる。


気持ちを表現できるようになるのは

人生の課題だろう。