アラサー女の話

朱に交われば赤くなる

喪服こそ女性を美しく見せる服だ



交際していた男性との関係を終わらせた。

原因は色々あるが、合わなくなったのだ。

合わせようとも思わなくなっていた。

一時期は将来のことも考えたのに。

女の心は秋の空を体現していた。


呆気なく終わった。ほっとした。

心のわだかまりが溶けた。関係を終わらせた足で新作コスメを見にデパートへ向かった。コスメを見るのは好きなのだ。



喪服こそ女性を美しく、優雅に見せる服はないと思う。喪服は黒一色。最近流行のイエベブルベでいうとブルベ冬の人が得意とする色。パーソナルカラーの論理で言うと全女性が美しく見えるわけではない。ちなみにパーソナルカラーがイエローベース秋の私にとって黒は鬼門カラーだ。


しかし、喪服は限定された儀式の中で着用されるからなのか、露出の少ない禁欲的なデザインだからなのか、色気がある服だと思う。喪服でAVもジャンルとしてありそうだ。未亡人という言葉の響きもエロい。脂の乗った色気がある。大人になって喪服を買った際、喪服が似合う女になりたい、と心から願った。


交際が終わるのもある意味、死だ。

恋愛関係は死に、知人関係へ生まれ変わる。

熱度が下がり、相手のことを思いやれなくなった場合も。かろうじて関係を維持できてるが、腐り落ちるのを待つぐらいなら、自分から断ち切りたくなった。


終わり良ければ全てよし。


安い肉は時間をかけて漬け込むと美味しくなるように、私も予め決まった死を迎えるために前日から準備をした。


風呂でサボンのスクラブで体を清め、

その状態で湯船に浸かる。体をほぐし、

むくみを排除する。

その後酒粕の塗るマスクを

顔、首、手に塗りたくる。

手はアルコール消毒もするようになったため特に念入りに。塗るタイプのマスクは待たされるし掃除も面倒なので、たまにしかしない。勿論髪も忘れない。アルビオンのおまけで貰ったヘアマスクを掌に薄く広げて毛先メインに塗る。浸透率が上がるように、目の細い櫛でとくのも忘れない。お金持ちのマダムの匂いがするので好きだ。内実伴わないのは仕方がない。


その日は早く寝る。浮腫みそうな塩分の多いものは以ての外だ。


朝はいつも通りに起き、いつもよりも多めに化粧水を使う。おっぱいまでが顔なので

おっぱいまで入念に塗る。そういえば触られることはおろか、見られることもなかった。


スキンケアを行いムラがないように丁寧に下地を塗り、マスクに化粧を食べられないように崩れ防止スプレーをし、いつものようにChloeの香水をつけた。


服はホンモノの喪服、を着るわけにはいかない。色こそ黒ではないが、終わりを告げるのに淡いラベンダーカラーはよかった。彼に褒められた服で喪服にもってこいだった。


恋愛に初七日や四十九日はない。次の機会を逃さないためにも、きちんと感情を弔う必要がある。また感情的になりすぎないように、お互いのために。




実のところ関係が終わる、あの独特な雰囲気がここ数週間漂っていた。あの雰囲気を直視せずにいる方がお互い難しかったようで円満破局できた。








恋人から知人に移行して、会うことなんて

ほぼないだろう。指先一つで連絡先を消せる関係なのだ。

優しくされたことや彼について考えた過去や嬉しくなった気持ちは消えないだろうが、彼の写真は全て消した。


結果的に交際して良かったと思う。




Chloeの香水を嗅ぐたびに

ファジーネーブルを飲む人を見るたびに

ミルキーの飴の包装を見るたびに

私のことを少しぐらい覚えてて欲しい。


元彼へのちょっとした復讐だ。

私のことを忘れないように。


どんな形であれ。